2014.09.28
『御堂筋STREET』御堂筋ピクニック座談会
こちらはタブロイド誌『御堂筋STREET』の1〜2ページに掲載されている対談です。
通り過ぎるだけの”道”から
滞在する楽しみをもった”場所”へ。
御堂筋が街の使い方を進化させる。
(写真左側)株式会社ケイオス 代表取締役 澤田 充 …街づくりや街ブランディングを業務とする株式会社ケイオス代表。主な業績 : 淀屋橋WEST/北船場くらぶ/北船場茶論/淀屋橋odona/本町ガーデンシティ/グランフロント大阪/新丸の内ビルディング/KITTE/大阪北船場スタイル/上質の大阪。大阪生きた建築ミュージアム推進有識者会議委員・船場地区HOPEゾーン協議会理事。
(写真中央)御堂筋まちづくりネットワーク にぎわい創出部会 部会長(積水ハウス株式会社 開発事業部) 神門英昭 …神戸大学工学部卒。勤務先ではデベロッパーとして、住宅地開発、グランフロント大阪、淀屋橋WESTエリアのオフィスビル等の事業開発企画に従事。御堂筋まちづくりネットワークでは2014年4月より名称変更した「にぎわい創出部会」において、会員企業と共に沿道店舗等による日常的な持続性のあるにぎわい創りに参画。
(写真右側)大阪府府民文化部 都市魅力創造局 文化課 企画グループ 主任研究員 寺浦 薫 …大阪府にて文化施策の立案、文化事業の企画・実施、府立江之子島文化芸術創造センターの立ち上げに携わる。「大阪・アート・カレイドスコープ」、ヨーロッパとの芸術家交流事業「ART-EX」、「水都大阪2009」、「おおさかカンヴァス推進事業」「プラットフォーム形成支援事業」など数多くのアート関連事業を手がける。
多様なコラボが街を活性化させる。
澤田 昨年開催した「御堂筋ピクニック」が形を変えて2回目を迎えます。今年は「御堂筋まちづくりネットワーク」と一緒に寺浦さんがやってらっしゃる「おおさかカンヴァス」もこのエリアでできたらと、同時開催とさせていただきました。今日は、今回の社会実験、さらには御堂筋の将来についてお話しできたらと考えています。まずはこれまでの活動やイベントへの想いなど、お聞かせください。
神門 「御堂筋まちづくりネットワーク」は、御堂筋が「活力と風格あるビジネス街」として維持発展することを目指して、イベントやプロモーション活動をしています。今秋は昨年の「御堂筋ピクニック」を発展させ、沿道のビルや店舗が空地にオープンカフェをせせり出して展開するなど日常的なにぎわい創りという視点から、御堂筋の将来像を探ります。大阪市と連携して、側道や歩道のにぎわい活用の社会実験も行います。
寺浦 「おおさかカンヴァス推進事業」は、大阪の街全体を「カンヴァス」に見立て、大阪の新たな都市魅力を創造・発信しようとするもの。公共空間とアートのコラボレーションによって、都市や地域の新たな魅力を発見、発信することと、アーティストが、アイデアと想いを実現できる機会を得ることを目的に、平成22年度から始まりました。 今回「アートを御堂筋でやることの意味」は、多様な人とコラボレーションできるということと、道路の機能を維持したまま開催すること。この2つが私たちにとっては意味のあることなので、「やってよかった」と思えるにぎわいがつくれるようにしたいです。
今年のピクニックは、より自由度が高いものに。
澤田 昨年の「御堂筋ピクニック」は、上質なにぎわいの可視化ということで、まず“上質”を「フィロソフィーとデザインとスタイル」だと定義づけすることから始まりました。「こだわりがある人がそこに来る、その醸し出す雰囲気こそが上質だ」と。そして〈中川政七商店〉の中川さんによる「にっぽんこうげいパビリオン」、〈五感〉の浅田さんによる「御堂筋ワイン&デリ」、リニューアルした「大阪マルシェ」の三本柱で構成したのが昨年のピクニックです。多様なプログラムがビジネス空間と調和したにぎわいを生み出しました。多くの人たちが、未来の御堂筋にふさわしい“上質なにぎわい”を体感したのではないかと感じています。
寺浦 澤田さんから上質の定義を聞いた時に、それこそが街づくりの本質だと思いました。
澤田 街というのは、絶対に訪れる人によって決まるんですよ。人の醸し出す雰囲気の総和が、街の雰囲気。上質=高級ではなく、自分の考えがあったり、ライフスタイルを持っている人たちが少しデザインにも気を配っているところに来ることで、上質な街になる。いろんな人に上質な空気を持ってきてもらえたら、この実証実験はいい感じになるのかなと考えています。
寺浦 昨年見せていただいて、「御堂筋ワイン&デリ」で公開空地とはいえ、お酒を飲みながら過ごせるようにされていたので、「これが日常になったらいいな」と思いました。しかも企業と街づくりをされている。ここにアートが入ってエリアマネジメントが発想できたら、もっと歩いて楽しい街に変わるのではないかと感じました。
神門 参加した感想ですが、日が傾きかけた頃からそぞろ人々が集まってきてワイン片手に語り合う、とてもいい雰囲気でした。昨年の座談会では、“フィロソフィー”-浅田さんの北浜にスイーツ文化を根付かせるという想い、中川さんの日本の伝統工芸を広めるという信念-が語られていました。今年は、何がクローズアップされますでしょうか。
澤田 今年はザート商会さんの「世界のフードマルシェ」inMidosuji、「期間限定セントレジスカフェ」、「ButterGRAND淀屋橋」のオープンカフェがメインとなります。ザート商会の今里さんは、ヨーロッパの街についての造詣が非常に深く、そこから御堂筋のにぎわいにふさわしい“しつらえ”を考えておられます。昨年はどちらかといえば「つくり手ファースト」。フィロソフィーを持った方々を立てて、それに共感してもらえるように仕掛けた感がありましたが、2回目の今年は街のみなさんにとってより自由度の高いものになります。来ていただいた人にフランクに楽しんでもらいたい、と。自分流(スタイル)で楽しむ。アフターファイブに同僚と来るのも良し、ご夫婦で待ち合わせて楽しむも良し。ちょっと引っ掛けて街へ繰り出していく人もいれば、ここでじっくり腰を据える人もいると、いろんな楽しみ方が広がると思います。今年はぜひとも参加者に、自分流の楽しみ方を発揮していただきたい。
将来に向けて、チャレンジする実証実験。
神門 今回は側道や歩道を使う社会実験ということから、伏見町から平野町の2ブロックが「御堂筋ピクニック」の中心となります。ストリート全体では点在するイベント構成がどのように見えるか、どのように楽しんでいただいてにぎわい創りに繋げていけるのかも実証実験のポイントです。
澤田 御堂筋は“通り”です。通りというのは目的があって行くもの。そこに時間滞在という概念はない。そこににぎわいをつくろう、というのは、本来の機能に相反する。だからあえて“ピクニック”という言葉を使って、機能性ではなく、滞在することの喜び=“にぎわい”としてやっていこうとしたんです。日常的に使っている場所でやることが面白い。「御堂筋がこういう、にぎわいになるんですよ」という、将来に向けたビジョンがあって、そこにチャレンジするのが実証実験的なところ。
寺浦 通り過ぎるだけ、機能だけじゃない道路を果たしてつくれるかという、素晴らしいチャレンジですよね。
澤田 「おおさかカンヴァス」は、これまで大阪のさまざまな場所で開催されてきましたが、規制に関してハードルの高い、御堂筋でやってみるというのはいかがですか。
寺浦 まず「道路をそのまま使ってアートを見せたい」というのがありました。おっしゃる通り、道路というのは規制の一番厳しいところ。一方御堂筋では大阪市と「御堂筋まちづくりネットワーク」さんが、新しい魅力を生み出そうと、規制緩和や新しいルールづくりを進めておられる。カンヴァスとコラボすることで、道路のクリエイティブな使い方が新しく開かれるかもしれない。ここでシビック・プライドが醸成されるような動きがつくれないか、という想いがありました。
澤田 とはいえ完成までのプロセスで、困難なことも多かったのではないですか。
寺浦 結構ハチャメチャな提案もあり実現できなかった作品も(笑)。それと展示にあたってビルの管理者のご協力や理解も必要です。“大人の上質な街づくり”がテーマですが、アートはそういうものばかりではないですし。
澤田 そりゃそうですね(笑)。アートは体制に反するものでもあるし。どういうものが規制にかかったんですか?
寺浦 ひとつ例を挙げると「馬を走らせたい」というのがありました。昔、御堂筋ができた時には交通手段として馬が存在したので。歴史に想いを馳せる、という意味で。またセスナ機をできるだけ低空飛行させるというものも。これも御堂筋が建設当時は「飛行場でもつくるのか!」と、人々がびっくりした逸話から。こちらは警察以前に航空法に引っかかりました。
澤田 御堂筋をつくった関市長が「大阪の真ん中に飛行場でもつくるのか」と言われたそうですが、やっぱり飛行場だったと(笑)。
神門 今回は期間限定のイベントが中心ですが、「御堂筋ピクニック」に合わせて、「ButterGRAND淀屋橋」では店舗前の空地で常設のオープンカフェがスタートします。規制緩和を活用して、沿道空間の日常的なイベントや店舗等の常設利用がより拡がっていくことが期待されます。
人がいる温もりや記憶の積み重ねが、
「街の使いこなし方」を変えていく。
澤田 最後にイベントを通して、御堂筋のこれからについては、どんな風に考えられますか。
神門 「御堂筋まちづくりネットワーク」だけで新しいことをやっていくというよりは、いろんなところと一緒にやっていくのが、新しいチャレンジなのかなという捉え方です。活動内容やエリアも広いので、それぞれの点が線になっていく、という実証実験でもあるし、最終的に線が面になっていかないといけないのかなとも思ったりしています。「御堂筋まちづくりネットワーク」としては御堂筋という線でやっていますけれど、「街を使いこなす」というのであれば、面になっていく時には、もうワンブロック広がっていくような連携が、これからの課題になっていきます。
澤田 「オータムギャラリー」を開催されていく中で、沿道企業の方々の理解や関心に変化はありましたか。
神門 最近では個々のビルや店舗が自主的に企画をしたり、関心が深まってきているように肌で感じますね。イベントの時だけでなく、いろいろな企画を立てて開催しておられますし。本町ガーデンシティの「STYLISHJAZZ NIGHT」も含め、ご存知の方はそれぞれの目当てを持って来られています。
澤田 まだ一部かもしれませんが、街の使い方が上手くなってますよね。昔のオフィス街にはなかったものです。それと御堂筋って、これまでもイベントだったり、さまざまな使われ方をしてきましたけど、こうやってまったく違う立場の人が集まってやるというのはなかったですね。
寺浦 そうですね。今回はそこが上手く機能したのではと思います。大阪はバラバラに活動する人が多い。それはそれでいい所もありますが、一枚岩にはなりにくい。今回成功したら、すごい実績になると思います。今回、大阪市さんには非常にご協力いただいております。行政が協働し、行政だからこそできる取組みを続けていきたいと思います。
澤田 僕が思うのは人が滞在して、人がいる温もりというか経験を御堂筋で重ねていくことが、将来につながるのではないかと。10年前の御堂筋であれば、そういうことはなかったですが、少しずつ変化の兆しが見えている。側道の歩行者空間化に向けた社会実験から、 “人”重視の道路空間へと変わる可能性も示されています。私たちが手がける「北船場茶論」など、これまでイベントとしてやってきたことが少しずつ積み重なって、皆さんの記憶の中にも、「御堂筋は単なる道ではない」という印象が形成されつつある。そこから、街の使いこなし方も進化していくと思うんです。
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