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artistreport

2016.10.10

interview「太陽の塔を倒したい」井口雄介

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9月某日、作家の井口雄介さんの制作現場にお伺いし、お話を聞かせていただきました。

ーー井口さんは東京にお住まいとのことですが、おおさかカンヴァスの存在は前からご存知でしたか?

はい、知っていました。去年の開催会場に道頓堀があるのを見て、出してみたいと結構ギリギリまで悩んでいました。残念ながら良いプランが最後まで浮かばずに出さずに終わってしまっていたんです。今回の万博記念公園という場所を考えるにあたって、以前、小さなカレイドスケープの作品を制作したときに、これを屋外でできたらいいなと思っていたので、今年応募しました。


ーー今回の作品はどんな作品ですか?

これまで風景をテーマに作品づくりをしています。earth work(1960年代後半よりアメリカで顕著になった動向。地面や湖などの自然を対象とし、それに直接働きかけて生れた仕事)の作品がすごく好きなんですよ。自分の作品もearth workのように自然破壊レベルのものはつくれないので、最初につくった作品も風景の一部を何か思いっきりかえられるようなものにしたいという感覚で、ずっとものづくりをしています。それもあって、どうにかしてその逆の、風景によって自分の作品が変わっていくようにしたいんです。

今回の作品も万博記念公園に設置したときは公園の景色が見えます。でもそれを、ぜんぜん違うこの東京の工房内で回してみても、作品としては違うものになってしまいます。今回、万華鏡というのは風景を自分の作品の中にどんどん取り込んで風景を遊ぶ感覚にしたいと思っていて、それが制作の経緯です。


ーー風景を取り込むアースワークが好きだったとお聞きしましたが、どなたかの影響はありますか?

好きな作家はゴードン・マッタ=クラークという、家をまっぷたつに切って、ふたつに割れたような作品をつくった作家がいるんですが、大掛かりな建築スケールでやっている作品が好きですね。

ウォルター・デ・マリアのライトニング・フィールドという作品などは、砂漠に避雷針を千本ぐらい立てて、そこに雷がどんどん落ちるんですよ。そういう環境を取り込んでいる作品をつくりたいです。


ーー実際、前回カレイドスコープの小さい作品をつくってみて、思い通りでしたでしょうか?

風景を取り込んだ作品は、もう少し改良していけば自分の武器になるなという感覚はあります。ある意味、体感的に「漕ぐ」という行為に重点を置いているのは風景を回すという作品なので、ボタンひとつで回っていくというよりは、足漕ぎのアヒルボートのように見る人が自分の力で思いっきり回していくようにしたかったのです。


ーー現段階でワクワク度はいかがでしょうか?

ワクワクしているんですけど、ちゃんと壊れず回るかなというのが心配です。想像していたよりは軽い力で回すことができるのですが、まあどこかで思っていたのと違うぞ、となったときが怖いですね。

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ドキドキ4割不安6割ですね。現場で組み立てないとわからないところがありますよね。


ーー今まで井口さんが制作された作品の中ではそんなに大きいものではないですよね?

屋外で動く作品はそんなに多くないんです。美術館系の会場内での経験はあったのですが、屋外だとどこまでも大きくできるので今回はそういう意味で不安です。大きくすることと動かすことはなかなか一体になりませんね。


ーーご自身の作品の強みはどんなところでしょうか?

今回の作品もそうなんですが、現存している作品は実は一点もないんですよ。というのも、鑑賞者の体感を特に重要視しているからなんです。

これは大学院のときにまとめていた論文にも書いたことですが、例えばこの工房の前の通りのなんでもない場所でも、そこで交通事故を目撃したとすると、「あの事故があった場所だ」と、なんでもなかった場所にすごく思い入れが生まれて、何年経っても覚えているんですよ。太陽の塔を回す作品は、今まで恐らくないと思うので、観た人からすれば、作品がなくなったあとも、太陽の塔を回した感覚を覚えてくれると思うんです。そんなふうに強烈な体験を与えるという作品を重要視しています。漕ぐといった、作品に関わるのりしろがあることで、体験として体を動かす時間が増えれば増えるほど、太陽の塔とともに記憶に焼きつくのでは思います。

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武蔵野美術大学大学院修了制作 E-SCAPE

以前制作した大きい輪っかの作品も写真を見て「すごいね」って言ってくれる人もいるんですが、これ実は下をくぐれるんですよ。頑丈で落ちてこないんですが、くぐった人は恐る恐る渡っていく恐怖症みたいなところが心に残っている。鑑賞した作品の中に物理的な恐怖心が入っているからこそ、より強烈な経験として残っているんでしょうね。


ーーきっと脳の中でエラーを起こしてしまっているんでしょうね。

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これは六甲ミーツアート(2012)で発表した「CUB-e-SCAPE」という作品です。300メートルだったんですが、はじまりと終わりが見えない位置で続けようとしました。歩いている人からすると山道を登っていて、ゴールがみえない感じです。山道を一度曲がったときにまだ続いている。そんなふうに鑑賞者に作品を経験してもらいたいです。

端から端まで見ていくのが作品の鑑賞とは別の不安があります。観に来てくれた方のblogとかに時々載っていているのが、実際作品は300メートルなんですが、1km以上あったとか、全部見るのにすごい歩いたって書いているんです。それだけきっと強烈な体験をしているんだと思います。


ーー風景という意味では、ある程度どこでも展開できる作品なのかもしれないですが、今回太陽の塔という絶対的な存在を前にして、そのあたりの意識はどんなものがありますでしょうか?

本物の太陽って日本で観てもアメリカで観てもいっしょじゃないですか。だからこそここにしかない太陽の塔の「太陽」を回せないかと思いました。あの太陽を回せる機会は今しかしかないですね。


ーー事務局側としてはすごくハードルが高くて作家としては嫌じゃないかなと思っていたのですが、井口さんにとってはお誂え向きの素材だったんですね。

もちろんプレッシャーはあります。自分の予想以上のものができないと、自分がすごく恥ずかしくなるので失敗が許されないです。ほかの方から気づかないような微妙なことでも、うまくいかないと自分の中で恥をさらし続けないといけないので、そこが怖いです。太陽の塔を軽々回してやる、ぐらいの挑戦の気持ちでいかないと。


ーー最後におおさかカンヴァスで叶えたいことはありますか?

アースワークの中でお話しした、ゴードン・マッタ=クラークが破壊行為のアートだと言われています。最近はいろんな規制が入っているので、私はこれをソフトヴァンダリズムと呼んでいるのですが、ソフトの面だけを変えていきたいと思っています。太陽の塔は物理的に切ることはできないので、ソフトの面で上下逆さまになる瞬間や、倒れていく瞬間をつくりたい。つまり、「太陽の塔を倒したい」というのが今回叶えたいことです。